迷 宮

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まるでスローモーション


あなたの指が私の躰の起伏を味わうように這う

 

 


まるでシーウインドウ


あなたの湿り気のある生暖かい吐息が私の肌を滑る

 

 


まるでバイブレータ


あなたのねっとりとした舌の舞が私の全てで蠕く

 

 


そこはラビリンス


あなたの熱い視線を感じて私の思いが疼く


あなたの熱いものを感じて私の躰がよがる

 

 

 

躰と思いの迷宮で


私は逃れられない


違う 逃れたくない ずっとこのまま

 

 

 

 

 

前 触 れ

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男と女がポートレートを見つめていた

 

「また会えた喜びの抱擁か」


男が云った

 

 


女は無言だった

 

 

 

「別れの口づけ‥」


女が消え入るように呟いた

 

 


男が写真を見つめ続ける女の横顔に視線を向けた

 

 

 

「最後の別れの口づけ」


女が自分に言い聞かせるようにはっきり云った

 

 

 


今にして思えばわかる


あれが終焉のプロローグだったと

 

 

 

 

物事には訳と前触れがある

 

 

 

 

 

覚 悟

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ちょっと待って‥


女が云った

 

でも躰を這い回る男の手を止めようとはしなかった

 

 

 


こんなところで‥


女がもらした

 

でも一糸纏わぬ艶かしい躰を隠そうとはしなかった

 

 

 

 

 

 

 

欲しかったんでしょう


女の覚悟が現れた

 

 


身動ぎせずに誘う視線で


じっと見据える熱い眼差しで男の度胸を試した

 

 

 


火遊びだけで終わらせはしないと

 

 

 

 

 

行 き 違 い

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抱いて


もの憂げな目元がそういった


俺にはそう見えた

 

 


抱きしめて


薄開きの口元が無言でそう囁いた


俺にはそう読めた

 

 


一度でいいから


スカートの中でゆっくり組み替えた脚が訴えた


俺にはそう思えた

 

 


だからだろう


そっと手を重ねたとき見つめてきた


顔を寄せたとき唇を寄せてきた


抱いたとき抱きしめてきた


結集したとき開放されていた

 

 

 

 

一つ違ったのは


一度でいいからと感じた俺の思い

 

 

 

 

 

暗 雲

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「私はどうなるの」


俺の煙草を咥えて煙を揺らしながらいった

 


初めて見る女の喫煙姿以上に肚の座ったその声に鼓動が早くなった

 


ひとときの禁断の楽園に暗雲が広がり出す

 


惑わせと誘いもそれにのったら最後「加害者」になるのは男

 

 

自ら躰を開いても「被害者」として手負いの猫になるのが女

 

 

 

 

「私たちどうなるのかしら」


女からの問いかけはすでに主語が複数形になっていた

 

 

 

 

 

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出会うことのない間柄だからなのか

 

 

場末の小料理屋の娘から

格式ある料亭のお嬢様になりすましたのは

 

 

 


知りえるはずがないと踏んだからなのか

 

 

女子が集う公立の高校卒業から

お洒落な有名私立大卒を匂わしてるのは

 

 

 


亡き人になったからなのか

 

 

不幸を絵に描いたような結婚生活から


幸溢れる理想的な思い出のように語りだしたのは

 

 

 


解釈違いですむと思ったからか

 

 

どこにでもある単純な流れ作業仕事から


数度の輝く下請けだけで芸能関係絡みといってるのは

 

 

 


そろそろ気づけよ


影が一番長くなるのは日没直前だってことを

 

 

 

 

 

正 義

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正義

 


二言目にはこの言葉を出す

 

 

そもそも正しいって何だ

 


道徳観を自分の都合で解釈したのがお前の正義だろう

 

 

巧みな思わせぶりの言葉選びでとりあえず心に染み渡るフレーズを紡ぎ出す

 

 

でも でもな

 


響きのいいもっもらしい正義感よりも飾らない思いが選んだ言葉が心に残る

 

 

身勝手な正義を言葉で着飾って綺麗に並べても

 


人の心の中の住人にはなれない

 

 

 

 

真の正義とは

 


許すことだよ